Steps

浦島茂世×野村岳(東洋製罐グループデザインセンター長)
人を魅了するデザインとは?

# インタビュー・対談

2019年12月23日から2020年2月21日まで、東洋製罐グループ本社ビル1Fに併設される「容器文化ミュージアム」にて開催された、パッケージデザインをテーマにした企画展「なんか、ちがう? パッケージデザインのやくわり展」。

実験的なパッケージの展示を通してデザインが人に与える印象、少しの違いから生まれる違和感を伝え、パッケージデザインの持つ役割を多くの人に知ってもらおうと企画されました。

その企画展に来場した、ライターの浦島茂世さんが展示の面白さをTwetterでつぶやいたところ、ツイートが拡散され話題に。多くの方に来場いただくきっかけとなったのです。

今回、浦島茂世さんと当企画の主催者でもあり東洋製罐グループデザインセンター長でもある野村岳による対談のオンライン配信を実施。「なんか、ちがう? パッケージデザインのやくわり展」はどのようにして作られたのか?パッケージやデザイン、美術館・博物館の今後についてお話しされた内容をレポートします。

「違和感」から伝えるパッケージの役割

浦島:はじめまして。浦島茂世と申します。本日はよろしくお願いいたします。

野村:よろしくお願いいたします。茂世さんのツイートをきっかけに、多くのお客様に「なんか、ちがう? パッケージデザインのやくわり展」に来場いただけました。もともと、茂世さんはなにをきっかけにこの展示を知ってくださったんでしょうか?

浦島:東洋製罐さんの会社のある大崎に私も住んでおり、近所を歩いていたら「容器文化ミュージアム」を見つけたんです。実際に展示を見てみると、「なんか、ちがう」というコンセプトが伝わってきて、すごく良かったんです。それをTwitterにつぶやいてみたら1.9万人もの方にいいねしていただけました。私のツイートをリツイートしてくれたフォロワーも多く、約7,000人がリツイートしてくれ、153万人ほどの方がツイートを見てくれていたようです。

野村:本当にありがたい話です。今回の企画は「パッケージデザインに興味をもってほしい」という主旨で開催したのですが、真面目にやると「容器の役割展覧会」というようなお堅い感じになる。それで入ってくる人はいないだろうと。
また、茂世さんのようなご近所のみなさんにも東洋製罐グループという企業があるということを伝えたかったという意図もあります。前を通るだけでなにかしらの違和感があって、気になる状態を演出してたかったんですね。
なので、まずはオフィスビルのガラスに「なんか、ちがう。」という黄色いサインを出しました。サインが気になって、入っていただけたら、次は気になる展示物も作らなければいけません。そういった流れから、モノとして違和感がある、いじりたくなるようなネタを考え、ダイレクトメールにも緑茶の長靴のデザインを使いました。
茂世さんのツイート効果もあり、8,000人の方々が来場してくれました。ここの狭い空間に入れ替わり立ち替わりでお客さんが来てくださり、普段は来られないような学生の方も多かったのは嬉しかったですね。

浦島:ダイレクトメールのデザインも面白いです。普段はセオリーにそったデザインをお仕事にしている方々が、逆に違和感をもたせようとするのって難しくないですか?

野村:難しいですね。なので今回は、緑茶と緑の色だけを使い、普段慣れている容器を変えていくことでズレを生みました。茂世さんは展示物の中で気になったモノはありますか?

浦島:緑茶も良かったのですが、クイズの展示が気になりましたね。計量法とかタラバガニとズワイガニの違いとかがマニアックすぎて。デザイナーあるある、と言いますか、良くありがちな間違いを、あえて本気で作り込むというのはとてもよかったです。

野村:あの展示は担当デザイナーも悩んでいたので、そう言ってもらえてよかったです。

浦島:いわゆるデザインの展示会って、大御所デザイナーの展示みたいなものが多いですが、デザインやクリエイターを目指す人にとってそれはエベレストを見るような感じかと。実際にデザイン業界のデザイナーたちが、どう悩み、作っていくかという過程が見えたところが面白かったです。
消費者としても「だからこういう表現になるんだ」と気づく。今回の展示は、それをエンターテイメントとして見せてくれたと思いました。
展示は何人くらいで企画されたんですか?また、次回の企画展などはあるのでしょうか?

野村:デザインセンターは11人のデザイナーがいますが、総出でやりました。次回も考えていますが、狙いすぎるとつまらなくなると思うので、そこは抑えていきたいです(笑)。
デザインセンターの普段の業務は、缶やパウチ、紙コップ、段ボールなどグループのプロダクトの印刷や形のデザインなどを手がけています。最近ではプロモーションのお仕事をさせていただいたり、デザインコンペにも出しています。

多様化する価値観、アップデートされるデザイン

野村:ところで、浦島さんはデザインって何だと思いますか?

浦島:昔は課題を解決するって答えていたんです。でも、先日スポーツ選手のデザイン対談を行った際に、デザインは課題解決もあるけれど、例えば「自分達は自分の意志でここまで歩いてきたと思うが、実は道や川や信号などがデザインされて、それに制御されているのかも知れない」と言われ、なんだか難しいですけど、その通りかもしれないなと思いました。

野村:さすがですね。Wikipediaによると「審美性を根源にもつ計画的行為の全般を指すものである」といわれています。更に見てみると、デザインとは「具体的な問題を解き明かすために思考・概念の組み立てを行い、それを様々な媒体に応じて表現すること」と解される。つまり、美しくみせる装飾(デコレーション)と認識されることが多いのですが、単純な話ではないんですね。

浦島:みなさん、装飾のことを言われます。でも、デザインってもっと深い話なんですよねぇ。

 

野村:でも逆に今までのステレオタイプのデザインがどんどん崩れていくことは興味深いです。価値の定義が劇的に変化し、当たり前が変わっていくのは新鮮で、見ていてとても面白い。ラベルレスの例では、「飲料にはラベルがついているもの」という昨今の固定観念が覆りました。
飾り立てず、素のままに近い状態でも語ってくれる商品はいくらでもありますし、余計な飾りを廃することは本質を際立たせる「高級な」パッケージの重要な要素です。
八百屋や魚屋が新聞紙で商品をくるんでいた頃のようなラフな包みかたってイメージ湧きますでしょうか。近場で手に入れる食材を短時間で消費するだけなら、少しの間、中身と外界を遮断するだけの簡素なパッケージングでも良いのです。テレワークにより職場と家庭の境目が曖昧になる中、パッケージは積極的に退化を迫られているようにも感じています。

……ついつい語ってしまいましたが、最大の崩れ方をしているのはみなさんも実感されている「働き方」ではないでしょうか。私も新しい日常にようやく慣れてきたところですが、「会社に行くこと=仕事」と捉えていた自分の固定観念を日々実感、反省しています。もはや、「普通」という言葉は意味を成さないようですね。

withコロナ時代、美術館・博物館の発信方法

野村:さて、そろそろ終わりの時間が近づいていきました。本日はいろいろとお話できて、とても楽しかったです。最後にオンライン配信を視聴中の方からいただいている質問にお答えいただいてもよいでしょうか。
「美術館や博物館は現在、3密回避のため入場者を絞っていますよね。しばらくは来場者数が多ければ多いほど大成功というモデルは成り立たなくなっていくと思いますが、今後そうした施設はどのような発信をすればよいのでしょうか?」

浦島:そうですよね。全日本博物館協会がガイドラインを出していて、2m以上の距離が取れることや、ハンズオン(触れる展示)は中止になるなどの方針が出ています。確かに何万人来たら大成功というモデルは非常に難しい。人を集める事ができなくなっているのは、全ての美術館・博物館の前提となっています。
何をもって成功かは、現在話し合っている最中だと思います。例えば満足度など、新しい指標が必要ですよね。とはいえ、お金は大事です。入場者がいないと経営が成り立ちません。
人を集めてはいけない前提と、人がいないと存続できない間で揺れている業界の方は多いです。
人気の展示は事前予約制となっていますが、それでも当初の目標の半分以下しか人は集められない。例えば、グッズや本などで単価を上げるくらいしかないですよね。または、お金をかけて展示を作るモデルが破綻しているので、持っているもので勝負できる常設展の充実や、リピーターに向けたファンクラブ会員制など、新しい施策が今後出てくると思います。

野村:なるほどです。企業が良い働きかけをしている事例やどんなものが喜ばれそうかなど、茂世さんは何か思うところはありますか?

浦島:グーグルミュージアムに登録して、ストリートビューで家でも見られるようにするのが良いのではないでしょうか。そうしたら、「容器文化ミュージアム」にも東京の方だけじゃなくて世界中の瓶・缶マニアが来てくれる。もしかすると、『YOUは何しに日本へ?』みたいな感じで来てくれる海外の方がいるかも知れません。いろんなデザイナーが、このミュージアムに自分の作品を飾りたい!と思える場になるといいなと思います。

野村:最後まですばらしいコメントをありがとうございました!今日は本当にありがとうございました!

浦島:こちらこそ、ありがとうございました!

 

容器文化ミュージアムについてもっと知りたい方は、ぜひオンラインミュージアムを覗いてみてください。

https://package-museum.jp/online_museum/

Profile

野村岳(のむら たかし:写真左)
浦島茂世(うらしま もよ:写真右)

野村 岳(のむら たかし)
東洋製罐グループホールディングス株式会社 デザインセンター長
北海道札幌市出身。
1989年 東洋製罐株式会社 デザイン課入社
自社およびグループ各社の容器包装製品デザイン全般を担当
2019年より現職

 

浦島 茂世(うらしま もよ)
フリーライター。
神奈川県鎌倉市出身。
美術や街、旅を中心に執筆。All About美術館ガイド。著書に『東京のちいさな美
術館めぐり』『猫と藤田嗣治』など