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女性営業チーム「TOKAN BUSTERS」/5人の女性社員が切り開いた新しい道のり

# インタビュー・対談

創立77年の歴史を持つ東罐興業。長く伝統を守ってきた東罐興業に、今、新しい風が吹きはじめています。
2019年7月から2020年2月にかけて行われた新世代エイジョカレッジ2019。そのフォーラム部門で、東罐興業の営業女性チーム「TOKAN BUSTERS」が審査員特別賞を受賞しました。

新世代エイジョカレッジ(エイカレ)とは、営業の女性(エイジョ)が実証実験を通してビジネスモデルの創出に取り組む異業種プロジェクトのこと。営業職女性のさらなる活躍を目指す、変革のプラットフォームです。

今回は「TOKAN BUSTERS」メンバーの吉永摩耶・越智亜希子・磯谷英美・落合治美・沢城美香の5名にオンラインインタビューを実施。結成の裏側や、見事受賞に至った取り組みの内容、今後の改善活動について話を伺いました。

日々の激務で手一杯……モチベーション 0 からのスタート

食品容器メーカーとして長い歴史を持つ東罐興業。伝統を守り続ける一方、古い慣習が残っているという課題もありました。その一つとして挙げられるのが、社内の女性比率の低さです。取り扱っている商品の主な消費者層は女性であるにも関わらず、特に営業職の女性は全従業員の0.8%という圧倒的少数。 女性目線が足りていないという状況でした。
そんな状況を打破し、ダイバーシティ推進に取り組むべく、東罐興業は「エイカレ」への参加を決意します。参加メンバーとして選出されたのは、営業本部の女性5人。日々多忙を極める彼女たちは、正直参加へのモチベーションが低かったといいます。

「最初に営業職の女性全員を集めた説明会が開かれたのですが、強制参加と言われていなかったので出席するつもりもありませんでした。それくらい日々の業務に追われていたんです」(越智)

他社とのギャップに衝撃!意識が変化したフォーラム

初めこそモチベーションが低かった彼女たちの心境を変化させたのが、エイジョカレッジのキックオフとして行われたフォーラム。ゲストによる講演や、参加者同士の議論が行われるイベントです。

「フォーラムに参加されていた他社の営業の方のお話を聞くと、同じ営業でも環境が全く異なっていて、自分たちの当たり前は、まったく当たり前ではなかったと気づきました。その上で、会社や組織を変えるにはどうしたらいいのかを学んだので、実践して変えてみたいと強く思うようになりましたね。たった2日間のフォーラムでしたが、『このメンバーだしやってみようか』とスイッチが入りました」(磯谷)

転機となったフォーラム以降、5人は話し合いを重ね、ある大きな問題を洗い出しました。それは、営業は時間・体力・鋼のハートを持つ人しか続けられないという実態です。

 営業ってキツいと思ってしまうこと自体が問題の本質だと考えたのです。エイカレのフォーラムでも、営業職の女性は10年以内に辞めてしまう割合が高いと聞きました。結婚や出産でライフスタイルが変わった時に、どういうキャリアが描けるのかが想像しにくい。実際、子どもを産んでから担当顧客を持つ営業職に就いている人はまだ社内にはいませんし、クレームが入った時に『子どものお迎えの時間だから帰ります』とは言えません。しかし、本当はその代わりがいないという状況を変えていく必要があるんです」(吉永)

同じくフォーラムに参加して意識が変化した沢城は、他社の参加者の愛社精神にあふれた姿勢に驚いたといいます。

 「もちろん、私たちも会社のことは好きなんです。でも、他の会社からの参加者の方が『自分の会社が大好きだ!』と胸を張っておっしゃっていたことに大きな衝撃を受けました。当時私たちは体力的にもメンタル的にも、営業の仕事はキツいという感覚が強かったのですが、もっと前向きな言葉を発して働きたいと思うきっかけになりましたね。逆に、私たちがなぜ辛くても営業が続けられているかというと、やっぱりお客さまに感謝してもらえるから。でも技術職の方や工場勤務の方は、直接ありがとうと伝えられることはあまりありません。そういう気持ちを社内で伝え合うことによって社内の雰囲気やモチベーションをアップさせて、生産性の向上を目指せないかと考えました」(沢城)

実証実験では業務面とメンタル面の両方にアプローチ

フォーラムでの気づきから問題点を洗い出し、話し合いを重ねた結果、実証実験では2つの試みが行われました。

①営業職の中でも社内業務に特化した「PASSER(パサー)」という役割の新設

②社内イントラで感謝メッセージとポイントを送りあう「スターポイント」制の実施

 

1 : PASSER(パサー)

「なぜこんなに忙しいのか自分たちでもわからない」という状況を整理するため、まずは業務の棚卸しが行われました。

「やっていることを全部書き出して、自分たちがその日何をしたかという15分おきのログを1ヶ月ほど記録しました。そのうちに、何にどう時間が使われているかが見えてきます。特に時間がかかっていたのは、工場に生産依頼をかけてお客さまに納品するまでのデリバリーという業務仕事。外回りだけでなく社内業務にもかなりのボリュームがあり、そもそも1人でこなすのは難しいのではないかという結論に至りました」(落合)

この結論から、実証実験ではTOKAN BUSTERS5人での部署を1ヶ月半ほど設立。吉永・沢城がPASSER(社内事務を請け負う役割)となり、磯谷・越智・落合の外回りを中心とした業務のサポートに徹する、というチーム営業で効率化を図りました。

実験の結果、 PASSERに業務を代行してもらえた営業担当に前月比 1.5倍の外出時間が生まれたほか、新規3件、年間1000万円の受注が得られました。顧客からも「バックアップ体制が整っていて素晴らしい」「提案・データ共有が素早い」と好評を受けたそう。メンバーの落合は「PASSERが居てくれるという安心感や情報共有による心強さなどにより、精神的なゆとりが生まれた」と話します。

 

2 : スターポイント制

社内コミュニケーション活性化のため、感謝のメッセージ・獲得ポイントを見える化する「スターポイント制」イベントを実施。全国の各工場にも説明会へ行き、工場の方へも理解を得るように進めました。

1ヶ月のイベント期間中には、1509名の従業員が参加し、554件の「ありがとう」メッセージのやり取りがありました。工場勤務者から「自分の行動が感謝されていることがわかり、やる気が上がった」「コメントが嬉しく、次も頑張ろうという気持ちになった」といった感想が寄せられたそうです。

この2つの実証実験が行われた結果、システム改革プロジェクトの立ち上げやオンライン会議の導入が決定。スターポイント制度についても、恒例イベント化の推進へとつながりました。

泥臭くがむしゃらに!個性をアピールし見事入賞

そうして迎えた20201月の第一審査会では2位通過、2月のサミットでは審査員特別賞を獲得。他社のチームがスーツをバッチリ着込んでプレゼンテーションを行うなか、TOKAN BUSTERS5人はつなぎを着て発表にのぞみます。

「私たちは社内には少ない女性だけれど、時間・体力・鋼のハートで頑張っているという思いからつなぎを着ました。技術職も多い職場のならではの泥臭さを演出しています」(吉永)

 そのプレゼンテーションからも現状を変えなければならないという必死さが伝わったこと、そしてなにより5人が本気で取り組んだ実証実験の結果が、特別賞受賞につながりました。

エイカレ終了後も続く改善活動

審査員特別賞を獲得してエイカレの取り組みは一区切りつきましたが、その後の改善活動は変わらず持続しているそう。

2020年の春から、営業職でフレックス制度が導入されました。制度自体は今までもあったのですが、あまり使う風土がなくて。使いたい人を募って経営層に交渉をして、約10人の営業職がフレックス制度を開始しています」(吉永)

1年間、あらゆる問題から目を背けず真摯に向き合ってきた5人のメンバー。以前と心持ちが随分変わったという彼女たちに、エイカレを通して得たものは何かを質問しました。

 「経営層の目線を持てたことが大きかったです。経営戦略会議でのプレゼン、意見をもらう機会を通して、会社の状況や社全体の考えを把握できるようになりました。一従業員も経営層も会社を良くしたいという思いは一緒なので、両者の思いがうまくつながるように今後も努めていきたいです」(吉永) 

「今まではトップダウンで仕事をしていたように感じていましたが、エイカレを通してできるんだという実感を得ました。今まで経営層に対して提案や意見をしていなかっただけで、一般職でもここまで変えられるんだと自信に繋がりました」(沢城)

 「これまで営業職を13年間やってきましたが、常に忙しく目の前の業務で手一杯でした。ですが今回の実証実験で自分の時間の使い方を見直せたので、後輩の育成や女性営業が働きやすいような環境づくりを私たちがしないといけないと感じました。今まで見て見ぬふりをしていたところも、改善すべきと感じれば積極的に取り組むようになったことが、自分の中での変化だと思います」(磯谷) 

「これまでもおかしいと思ったことを上司には提言していましたが、なかなか個の力では変わらないなと感じていました。ですが今回5人で活動してみて手応えを感じたし、改善に向けた道しるべができたのはすごく大きな収穫だったと思います。ほぼ喋ったことがなかったメンバーとも、近い席で仕事をして考え方に刺激を受け、かなりモチベーションが上がったのも良かった点です」(越智)

「私は一番年長者なので初めは少し責任を感じていましたが、5人が集まると次から次へとアイデアが出てきました。エイジョのことはもちろん、仕事以外の生活のことや考え方など、幅広い世代間でいろいろな話ができて、私の中の凝り固まっていた部分も4人のおかげで緩んだのかなと思いました。本当にいい経験になりました」(落合)

5人の女性が力強く踏み出した第一歩。「女性の働き方改革だけでなく、東罐興業全体がさらに良くなるきっかけを作っていきたい」と話す彼女たちの動きに、これからも目が離せません。

Profile

TOKAN BUSTERS

東罐興業株式会社

吉永 摩耶 (よしなが まや)・・・営業推進部 営業推進G
磯谷 英美 (いそや えみ)・・・・営業三部
越智 亜希子(おち あきこ)・・・・営業一部
沢城 美香 (さわしろ みか)・・・営業二部
落合 治美 (おちあい はるみ)・・営業二部 営業二G