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東洋製罐グループ内有志チーム「PTF」/Makuake Incubation Studio、アイドルグループらとのコラボレーション「推し飯缶 瀬戸内和風カレー」が生まれるまで

# インタビュー・対談

東洋製罐グループとMakuake Incubation Studioによる共同プロジェクトMakuake Challenge2020において、一つの新商品が生まれました。その名は「推し飯缶 瀬戸内和風カレー」。

「『推し』の手料理を缶詰にして、販売。ファンが推しの料理を実際に食べることができる!」というアイデアは、応援購入サービス「Makuake」にて、目標金額 350,000円のところ878,000円、250%の支援を得て大成功をおさめました。

今回、「推し飯缶 瀬戸内和風カレー」の企画·プロダクト制作·プロジェクト推進を行った、東洋製罐グループ内の有志チーム「PTF」のメンバーの、松廣未奈、渡部篤、遠藤宗広、中村太一にインタビュー。4名の座談会形式で、このアイデアが生まれ、実際に商品化されるまでのお話を伺いました。

誰もが「作ったものを加工食品にできる未来」を目指したプロジェクトのスタート

――本日はMakuake Challenge2020に参加し、「推し飯缶」という商品を実際に販売された「PTF」の4名へインタビューさせていただきます。まず自己紹介と、プロジェクトへの参加理由を一言ずついただけますか?

松廣未奈(以下:松廣):東洋製罐グループホールディングス株式会社、デザインセンターの松廣です。普段は得意先が決まっていない企画や研究段階の製品デザインやパッケージ以外の製品デザイン等に携わっていますMakuake Challenge2020は、消費者向けにモノが作れるプロジェクトだと知って、興味を持ち参加しました。普段のデザインセンターでの業務は製品ができるまでのほんの一部にしか関われないことが多いので、消費者向けの商品を、1から作れるという部分に惹かれました。このチームのリーダーを務めています。

渡部篤(以下:渡部):東洋製罐グループホールディングス株式会社イノベーション推進室の渡部です。Makuake Challenge2020の前にグループで崩創ラボというプロジェクトがあり、そちらに参加していたのですが、当時私はシンガポール支店に勤務していたため物理的な遠さからも、不完全燃焼で終わってしまっていました。その思いがずっとあったので、具体的にモノを作れるチャンスと思い、再びシンガポールからでしたが、応募しました。

中村太一(以下:中村):東洋製罐株式会社営業統括室の中村です。普段は業務では市場調査や市場予想をしているのですが、営業という肩書きがありながらものを作って売るという経験がなかったので、消費者に向けて企画段階からものづくりに挑戦できることはいい経験になるのではと思い参加しました。

遠藤宗広(以下:遠藤):東洋製罐グループホールディングス株式会社経営企画部(※インタビュー時)の遠藤です。参加した理由は、長期経営ビジョン策定のプロジェクトに参加する中で、社内のメンバーがしていた、未来の社会とそこで当社が行う事業についてのディスカッションを聞く機会がありました。そこでは「アイデアは持っているけど形にする方法がわからない」という意見が多かった。ですので、仕組みや具現化する部分を実際に体験できたらと思い参加させていただきました。

 

左から、遠藤宗広、中村太一、渡部篤、松廣未奈

――ありがとうございます。早速ですが、Makuakeから販売した商品の説明をお願いします。

松廣:「推し飯缶 瀬戸内和風カレー」という商品です。中身は名前の通り、瀬戸内の食材を使った具沢山のカレーで、大ぶりなタコやちくわが入っています。AKB48の姉妹グループで、瀬戸内を拠点に活動するSTU48のメンバー2人がレシピの選定と調理に参加。アイドルが協力して調理したものが食べられるという企画です。

パッケージのイラストも、普段から自作のイラストがグッズに展開されることもあるアイドルご本人が手掛けたもの。商品パッケージの中にはお礼状が入っており、私たちのチームからのお礼の文章と、STU482人からのメッセージ動画を見ることができるQRコードがついています。

「推し飯缶 瀬戸内和風カレー」。大ぶりなタコやちくわがふんだんに入っている

――東洋製罐グループがアイドルと一緒に仕事をするということは、今までになかった取り組みだといます。プロジェクトが生まれた経緯を教えてください。

松廣:実は、元々は全く違う案だったんです。まず、私たちのチームが目標とするのは“100年培った食品保存技術のノウハウを活かし、個人が加工食品を作る新しい仕組みを盛り込んだ、「パーソナライズド食品事業」の実現です。

「本人の作ったものが加工食品になる未来」の実現を目指し、各家庭の味や、昔よく行ったあのお店の思い出の料理、画面の向こうのあの人が作った料理などが流通できるCtoCの世界を作ることをゴールに掲げています。

そこで当初、家族の手料理を缶詰にして、タイムカプセルのように長い期間を経てお届けする「お袋の味タイムカプセル」を構想していました。しかし、缶詰を購入したいと思う人が家族くらいしかいないのでは? という意見や缶詰製造に必要な免許の問題もあり、事業展開が難しいのではという話に。

中村:インタビューを繰り返す中で「お袋の味タイムカプセル」が欲しいという人は確かにいました。ただ、一商品につき欲しいとされる数が10缶ほどだったので、これだとビジネスとしてはマネタイズが難しかったんです。

松廣:それから、単価を下げるために調理現場にたくさんのお母さんたちを一同に集めることもコロナ禍の検討でしたので難しい。さらにMakuakeでどうやって売るのか? という部分でもつまずきました。一旦アイデアを仕切り直そうとしていた時に、社外メンターへの相談を通じて推し文化を知り、「推しが作ったご飯の缶詰」=「推し飯缶」というアイデアに至ったんです。

渡部:私たちは、好きなアイドルを「推し」と呼ぶような言葉や文化自体、その時はじめて知ったくらいだったんです。でもこのビジネスは1:1では成り立たないから、1:Nにする必要がある、じゃあどういうものがあるのか? と悩んでいたタイミングで、「アイドルとファン」という関係性はいいのではないかと思いました。

遠藤:推しという文化があるらしい。しかしどんな対象やアイドルがいるかもわからないので、まずGoogleで調べることからはじめました(笑)。

松廣:「推し」と呼ばれるような有名人に協力していただいて作ろうとなった時に、では誰にお願いするかとチーム内で話し合うのですが、全員そこまで芸能界に明るくないメンバーで……。知らないなりに調べて、飛び込みでオフィシャルホームページから連絡していく中、STU48さんとつながることができたのです。その時には、すでに缶詰を作る製造場所は、兵庫県にある東洋食品工業短期大学に絞って考えていました。缶詰製造に必要な免許があることや製造の指導をしてもらいながら個人が缶詰の製作に参加できそうだという理由からです。瀬戸内というつながりもあるのでぜひとお話をしたところ、興味を持っていただけたという流れです。

東洋製罐グループ本社内のキッチンスタジオにて。シンガポール駐在メンバーと食材選定のWEB会議中の様子。

「ベンチャー企業のメンバーになったつもりで」必死に取り組んだ日々

――有名人とのコラボレーション自体がかなり慣れないプロジェクト内容ですが、Makuakeサイト内で公開されるプロジェクトページ作りも普段は行わないような作業だったかと思います。

松廣:実際店舗で販売するわけではなく、Makuakeサイトのページを見て買うかどうかを決めることになるため、プロジェクトページ作りはすごく重要だと考えていました。ページのテキストを担当していた渡部さんは大変だったと思います。

渡部:土台となる内容は、チームのみんなで考えて話し合っていたので、私はそれを元に文字にしていくだけではあったんです。ただ、この文章でいいのかな? この伝え方で大丈夫? と、何度も推敲しました。

松廣:書いているうちにアイドルが言っているのか、東洋製罐グループが言っているのかがわかりにくくなって、ファンの方が読んだときに混乱してしまうのではないか、そういう部分の調整に時間がかかりました。あと私たちはどうしても口調が堅くなりすぎてしまうので……「喫食」とか書いてしまっていたり(笑)。

渡部:「食べてください」、ただそれだけの文章でさえこうなってしまうんですよ……

松廣:アイドルのブログを読んだりして堅くならない表現や語尾を勉強したりもしていました(笑)。

――今回のプロジェクトのリーダーとして、大変だったことはありますか?

松廣:最初の頃に、「自分たちがベンチャー企業のメンバーになったつもりでやってください」とMakuake Incubation Studioのメンターに言われて。リーダーの私だけでなくメンバーみんな本当にそういう気持ちでやっていたと思いますね。連日ここのメンバーで22時くらいまでメールのやりとりをすることなんかしょっちゅうでした。

中村:まさかこの時間には返ってこないだろうと思いつつ、とりあえず送ってみると返事が返ってくる(笑)。

渡部:ただ大変だった分、外からの反響を感じられた時は嬉しかったです。Makuakeサイトには、応援購入した方からのコメント欄があります。プロジェクトによっては、そのコメントが少ないこともあるんですが、私たちのページは、コメントが割と多かったと思います。コメントの内容も、アイドルが作った缶詰というストーリーに共感していただけている内容が多くて、私たちの想いに反応をくれたことが嬉しかったです。やったことのないことに挑戦できたこと、最後まで進められたことも貴重な経験になりました。

中村:壁にぶつかったとき、あれじゃない、これじゃない、といろいろなアプローチをしていくうちに、スッとうまくハマって前進する瞬間がありました。あの時は嬉しいんですよね。あまり見返りはなかったのかもしれないけど、たくさんトライして、やっと一個ヒットするような感覚、それが楽しかったというか、嬉しかったです。

遠藤:私はなんといっても、外部に売れたときが嬉しかったです。2個セットが初日あっという間に完売してしまって、驚きと喜びがありました。2個入りが売れた理由はいろいろだと思いますが、アンケートによると、1個食べてもう1個は取っておきたいとか、より多く購入したい、という声もあり、これは「推し」文化ならではの現象だと思いました。最終的に10缶買っていただいた方もいたほどです。

――好きなアイドルに投票する感覚でたくさん買う。それと近い感覚なのでしょうか。

遠藤:それで言うと、最初は買ってくれる方も購入者特典などのおまけ的なものに興味があるだけで、中身にはそこまで興味を持ってはいないと想像していたんです。でも意外とアンケートには「中身が楽しみです!」という声がすごく多かったので、本人が作ったものだという価値がある。こうした反応ひとつひとつに気づきがありました。

各食材の大きさ、重さやルーの量は1缶当たりで定められているため、計量が必須。こちらは計量前後の様子。計量に問題のない缶詰は蓋を巻き締めて殺菌工程に移る。

研修よりも一歩踏み込んだ、リアルで濃度のある学び

――Makuake Challenge2020に参加して得られたこと、学びを教えてください。

松廣:このメンバーと密に関われたということが一番大きいです。他部署の人とは関わりがあっても、このような深い話をすることがないので、ありがたい機会だなと思っています。

渡部:私も同じでこのメンバーと取り組めたことが良かったと思っています。東洋製罐グループでも技術系の部署の人とは付き合いもありましたけど、それ以外の人と知り合う機会がないので。さらに単なる研修じゃなくて、本当に消費者に売ることになるので、私たちの中では勝負をかけているみたいな部分もあって。研修よりも一歩踏み込んだ学びを得られました。

デザインの相談は松廣さんにすればいい。缶詰の表記や缶にまつわるわからないことは中村さんに、お金についての疑問は遠藤さんに聞けばいい。その辺もうまくみなさんの得意分野に頼ることができて、東洋製罐グループの中のいろいろな部署の方と活動できてよかったなと思います。

中村:やりたいことがあったら、まず、社内に話をして進めると思うんですけど、今回、我々はベンチャー企業でもあるので、社外に見積もりなどをお願いをして、あえて社内と社外をコストや納期で比較してみるということを試みたんです。それで社内、社外それぞれの得意な部分を肌で理解できましたし、プロジェクトで行き詰まった時にも、一回外に話を聞いてみる、調べてみるだけでも、新たなインプットによって状況ががらっと変わったことがあったので、外に目を向けてみることの重要性に気づけました。

自分の仕事としては、実践できたということがすごく大事だったなと思います。新規事業や新製品を考える社内研修には何回も参加したことがありますが、今回実際にものを販売するところまでやるとなると、濃度やリアル感が違うという実感がありました。さまざまなことを、やる前から知った気にならないで聞いてみる、「勉強してから」ではなくてとりあえずやってみる、という考え方も大事にしていきたいと思います。

遠藤:一番苦労した部分であり、気づきがあったのが、プロモーションについてです。商品をどのイメージで、どんな動画で打ち出していくか、そこをしっかり固めないとプロモーションとして成立しない。すごく難しいですけれど、そこをきちんと固めてあげないと世に出せないのだと身をもって感じました。

缶詰にシリアル番号のシールを貼り、お礼やメッセージ動画のQRコードが入ったチラシとともに丁寧に梱包。このあと、応援購入者に配送される。

――PTF」の活動として、これからの展望はありますか?

松廣:「パーソナライズド食品事業」として、マネタイズしていくにはどうすればいいのか、という部分を考えています。

今回売ることには成功したのですが、今後ビジネスとして成立させるには、正直さらに生産コストを落とすか、もっと数を売れるようにするか。継続性や再現性を確保することを盛り込まないといけない状態です。「推し飯缶」だけの取り組みではこの部分は膨らんでいかなそうなので、どうやってビジネスをスケールアップするかを考えていかないといけないと思っています。

思いとしてはやっぱり、個人がもっと気楽に加工食品を作ることができるプラットホームを生み出したい。そうすれば、例えば当初の案である「お袋の味タイムカプセル」だって可能になりますよね。ゆくゆくは、そういうものができたら面白いのではないかじゃないかな、と話し合っています。

渡部:このメンバーで引き続き、挑戦を続けていきたいと思っています。

「推し飯缶 瀬戸内和風カレー」Makuakeページはこちら

https://www.makuake.com/project/setouchi_curry/
プロジェクトは終了しています

Profile

PTF

松廣未奈:東洋製罐グループホールディングス株式会社デザインセンター
渡部篤:東洋製罐グループホールディングス株式会社イノベーション推進室
中村太一:東洋製罐株式会社営業統括室
遠藤宗広:東洋製罐グループホールディングス株式会社経営企画部(※インタビュー時)