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デザインセンター×外部団体活動【前編】
インハウス女性デザイナー研究会 「JIDA女(ジダジョ)」の活動を通して考えた、新しく前向きな働き方

# インタビュー・対談

東洋製罐グループ製品のパッケージデザインやグループ各社の販促物の制作を担当している東洋製罐グループホールディングスのデザインセンター。他社との交流による知見・知識の拡大や、業界内での人脈形成を目的とし、外部団体との活動を積極的に取り入れているという当部署に、その取り組みの内容についてお聞きしました。

実際に外部団体での活動に参加したデザインセンターのメンバーに、参加に至った理由や活動内容、取り組みを通して得た知識・経験についてインタビュー。前編・中編・後編の3記事に渡って掲載します。

前編でお話を伺うのはJIDAインハウス女性デザイナー研究会、通称「JIDA女」での活動に参加した、松廣未奈と東くるみの2名。

研究開発部門のディレクターを務め、研究開発や調査に関わる業務を担当する松廣と、入社して5年目の若手デザイナーで、製品のパッケージのグラフィックデザインをメインに、プロダクトデザインも担当する東。2名は「JIDA女」での活動で、ライフスタイルの研究と、そのアウトプットとして「JIDAROTカード」というタロットカードを制作し発表しました。外部での活動を通して、どんなことを学んだのか?対談形式でお話をお聞きします。

デザインセンター 松廣未奈

デザインセンター 東くるみ

女性インハウスデザイナーの交流の場「JIDA女」とは?

――では早速ですがお二人が参加された「JIDA女」についてご説明いただけますでしょうか。

松廣: JIDAインハウス女性デザイナー研究会、通称「JIDA女」は、公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会(JIDA)*1という団体の中の1つの分科会です。男女雇用均等法ができた直後の1986年、女性デザイナーの地位向上や育成を目的に発足。今年度(2022年度)で35期を迎える歴史ある組織です。

組織が発足した当時、インダストリアルデザイナーは男性の割合が多く、女性は1つの企業に数名いるかいないか、という状況だったのではないかと思います。孤立してしまうこともあったであろう女性デザイナー同士が、会社の壁を超えて出会い、知識を広げる場を作ることを目的に始まったのだと聞いています。

*1 「公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会/JIDA……プロフェッショナルなインダストリアルデザインに関する唯一の全国組織。その前身は、1952年に創立された「日本インダストリアルデザイナー協会」であり、2021年に「日本インダストリアルデザイン協会」へと改変。

――現在は何名が「JIDA女」に所属、活動しているのでしょうか?

松廣:私たちが加入した34期(2021年度)は、7社10名で活動しました。毎年、参加企業から1名もしくは2名が参加して、約2年ごとに後輩や同僚に引き継ぐ形で運営しています。ですので、人は毎年入れ替わりますが、継続している参加企業が多いです。

――そのような中で東洋製罐グループは2021年度からの参加だと伺いました。参加に至った背景や理由を教えてください。

松廣:上司がJIDAの別の委員会に参加しているので、話を聞いて興味を持っていました。「JIDA女」は年度制のプログラムなので、加入ができるタイミングを見計らってコンタクトを取り、2021年度から参加できることになったのです。

その際、「JIDA女」は若いデザイナーの集まりでもあるため、もともと参加希望だった私だけではなく、若手にも参加いただきたいと思い東さんにも声をかけました。彼女は主に、グラフィックデザインを担当していますが、プロジェクトによってはインダストリアルデザインの領域の形状デザインを担当することもあるので「ぜひ参加してみませんか?」と。

東:声をかけていただいた当初は活動内容さえ分からなかったのですが、同世代のデザイナーといえば同期に1人いるだけで、他社のデザイナーさんと交流する機会もないため、貴重な機会をいただけて嬉しいと思い、ぜひ参加したいとお返事しました。

――具体的にどのような活動をされていたのか教えてください。

東: 1年度を1期として活動し、期ごとに研究内容やテーマをメンバーみんなで決めて進行する形です。

活動としては、月1度の定例会があります。毎月どこかの会社のオフィスに集まりディスカッションなどをするのが定番でしたが、コロナウイルス感染拡大の影響で34期の前半はオンラインで開催されました。スタート時はほとんどが初対面のメンバーで、また、一口にデザイナーと言ってもデザインリサーチやUX・UIデザインなど担当分野は様々です。そこで、毎回定例会の前半には自己紹介や仕事の紹介をし、その後に研究テーマ活動をするという流れになっていました。

ZOOM(オンライン)での定例会の様子

参加者の興味関心から導かれた、自己と他者について深く考えるためのテーマ

――研究テーマ活動とはどのようなものでしょうか?

東:研究テーマ活動は、年間を通して取り組むテーマをひとつ決め、テーマに対する調査研究や、アウトプットを行います。
私たちはまず、テーマを決めるためのワークショップを実施しました。「みんな、今何に興味がある?」という質問に対し、人権問題について、将来のショッピングについて、ライフスタイルについて、テレワークについて……といったように、すごく個人的な話題から社会問題まで、それぞれが興味を持っているトピックを雑多に出し合って、共通点を探ったりディスカッションをしたりしましたね。

ディスカッションの様子

――そういったディスカッションから、研究テーマを設定まではどのような流れだったのでしょうか?

松廣:ワークショップやディスカッションを通して「わたしを知る、あなたを知る−シアワセの作り方−」。という年間テーマが決まりました。
新しい生活様式によって自分と向き合う時間や機会が増えたこと、人々の多様性への理解が世界的にも急速に高まってきていること、といった社会背景とも照らし合わせて「自己と他者について深く考える」ことができるテーマの設定に至りました。

さらにこのテーマの中で、人権について研究するチームと、ライフスタイルについて研究をする2チームに分かれることに。私と東さんは後者のチームとして、一緒に活動をしました。

(34期テーマビジュアル:東芝テック 曹永 紗世さん)

働く女性のシアワセを応援する「JIDAROTカード」

――ライフスタイルの研究として、どのようなことをされたのですか?

東:月に一度体調が乱れてしまったり、テレワークが増えるとオンオフも切り替えにくかったり……。自分たち自身も働く女性の一員として、働きにくさを感じることがあります。そういう時、みんなはどうしているんだろう?という興味から、まずは自分たちの生活の自己分析をしてみたのです。日々どのように過ごしているか、そしてその時の気分の上がり下がりなどのメンタル状態を、アプリを使って分析・共有することからスタートしました。その結果を参考に、自分たち当事者の視点から働く女性を応援するためのアウトプットとして、何がふさわしいのかを探っていきました。

――そうした研究をもとに、日々をゴキゲンにすごすためのツール「JIDAROTカード」というタロットカードが出来上がったのだとお聞きしました。このアウトプットに至ったのは、どういった理由だったのでしょう。

東:研究の成果として、発表をすることは決まっているのですが、モノを作らなければいけないというルールはありません。私たちも最初はプロダクトではなく、日常生活を振り返り、よりよく過ごすためのヒントとなるワークショップツールを作ろうとしていたんです。しかし、ワークショップをするとなると、時間や場が必要。「疲れているときにそんなことはできないし、したくないよね?」という議論になっていったのです。

そこで出てきたのが、タロットカードというアイデアでした。何か辛いことがあった時、「他のみんなはこんな時どうしてるんだろう?」と知ることができるだけでも心が楽になるものだと思います。「何気ない会話で情報交換をするような気軽さで、占いやお告げのように見ることができるツール」というのが私たちの目指すアウトプットとなりました。

ゴキゲンのもとを占う「JIDAROTカード」&「シアワセの作り方ヒントBOOK」
(撮影:キヤノン 大野真由さん)

――テーマ研究からタロットカードの形に決まるまでには、紆余曲折があったのですね。

松廣:そうなんです。 私がこのプロジェクトで新鮮だったのは、最終的に何を作るのかが全く決まっていない状態のまま、長い期間研究が進んでいくことでした。私たちの仕事は、大抵「パッケージを」「いつの展示までに」「この形で発表する」などと決まっていて、ゴールから逆算してスケジュールを立てて進めていくことがほとんどなので、実は今回、少し不安だったんです。

でも他社の方々は、こういったプロジェクトの進め方に慣れている様子でした。個人的な想像になりますがその理由として、「JIDA女」のメンバーのほとんどは、プロダクトのデザイナーではなく、UX・UIのデザインやリサーチを担当している方だったことがあるのかなと。過程やプロセスを大事にしている人たちが多かったことが関係しているのではと思いました。

プロダクト制作もリモートで。スムーズなやりとりを支えるツール

――「JIDAROTカード」を作ると決まってからはどのようにモノ作りをすすめていったのですか?

東:実際にモノを作る段階では、それぞれの得意分野を生かし、作業を分担して制作していきました。アイコンや冊子のデザインは参加企業の東芝テック 曹永さん、カードのデザインはGKダイナミックス 綾田さんに、写真はキヤノン 大野さんにお願いし、私はイラストの制作を担当しました。

松廣:私は三菱電機 湯浅さんと一緒に資料作りと発表を担当しました。社外の人と一緒に資料を作ることも初めてで、すごく新鮮でした。

冊子・アイコンデザイン東芝テック 曹永紗世さん
イラスト東洋製罐グループホールディングス 東

(カードデザイン:GKダイナミックス 綾田孝世さん)
(撮影:キヤノン 大野真由さん)

(発表資料:三菱電機 湯浅美里さん、東洋製罐グループホールディングス 松廣)

 

 

東:制作は全てリモートで行いました。その中で、社内・社外関係なく、リモートでも相手と情報共有しながらモノ作りをすることが、今は当たり前にできる時代なんだと実感しました。チャットツールでリアルタイムでやりとりしていたのですが、実際に会ってお仕事しているかのようなスムーズさでした。

松廣:制作で使用していたツールのひとつが、miroというオンラインホワイトボードツールなのですが、ほかにもいくつか、リモートワークを円滑に進めるためのオンラインのツールを新たに知れたので、今後自分たちの業務の中にも取り入れる予定です。

東:私たちは、コロナ禍の緊急事態宣言でバタバタとテレワークに移行したため、十分な計画はできていなかったんです。突然、分からないながらもそれぞれ家で各々働き出し、そのまま 2年以上経ってしまっていました。そんな状態が当たり前と思っていたのですが、今回、miroというツールは多くの企業で取り入れられていると聞いて、どの会社さんもテレワークの方法を模索されていてるんだなと感じました。

制作時に使用していたオンラインホワイトボードツール「miro」の画面

「JIDA女」を通して生まれたつながりを、より深く・より広く発展させたい

――ツールひとつとっても、他社の働き方から参考になる部分があったのですね。その他にも、活動を通して得た知識や印象的だったことがあれば教えてください。

松廣:ゴールを決めずに進めることのメリット・デメリット両方を感じられました。メリットはなんといってもアイデアの幅を狭めないところ。ゴールを設定してからスタートすると、どうしても、それ以上のものが出にくくなるので、この方法だとアイデア自体の可能性は広がります。一方、スケジュール面ではデメリットもあると感じました。提出や発表の日が決まっている場合、企画が決まった段階からそれまでにできることは限られてしまう。特にプロダクトであれば制作にどうしても時間がかかるんですよね。

印象的だったことといえば、インダストリアルデザイン業界の変化を感じたことです。UX・UIデザイナーの割合がすごく多く、モノではなくソフトウェアをアップデートすることで新商品を作ったり、差別化を図ったりしている。昔は、デザイナーの仕事=モノを作ることだったので、商品の作り方自体が変化していっているんだと、改めて実感できました。

――現在、昨年度に引き続きお二人は2期目の活動中とのことですが、最後にこれからチャレンジしてみたいことを教えてください。

松廣:昨年よりも個人同士のつながりを意識的に作っていきたいです。制作期間が終わってからはなかなか連絡を取る機会がないので、プロジェクトの同期でいる間に、深いコミュニケーション取るのが大切だと、改めて感じています。

東:今は「JIDA女」の中での活動に収まっていると思うんですけれども、ここで出会った方々と「JIDA女」の枠の外でのコラボ活動に発展していけたら面白いと思います。
弊社の取り組みに興味を持ってくださる方もいらっしゃったので、自分たちの作っている製品を絡めて、新しいものやことを作っていきたい。実現するかはわかりませんが、今後に何かがつながっていけばと考えています。

Profile

松廣未奈(まつひろ みな)
東くるみ(ひがし くるみ)

松廣未奈:東洋製罐グループホールディングス株式会社デザインセンター

東くるみ:東洋製罐グループホールディングス株式会社デザインセンター